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チョ・インソン~ジェミンに恋して

チョ・インソン~ジェミンに恋して

バリでの出来事52

ジェミンがためらいながら、もう一度ドアをたたこうとすると突然ドアが開き、中からイヌクが出てきた。

ジェミンは驚いて聞いた。

「どうしておまえがここに?」

イヌクは憤りを隠せず

「忠告したはずだ。この街をうろつくな」

そう言って、ジェミンの肩を押すとその反動でジェミンはイヌクを殴り倒し、そして言った。

「いいか、スジョンは俺の女だ。俺の女に手を出すな」

ジェミンがドアを開けようとすると、その腕をつかみ今度はイヌクがジェミンを殴り倒した。

「あんなにしておいてか・・。スジョン一人にすべてを背負わせておいて・・」

そのときスジョンがドアの前に立っていたが、イヌクは気付かずに続けた。

「可哀想な女をこれ以上もてあそぶな」

スジョンはその言葉を聞くと、悲しげに言った。

「何事ですか」

するとジェミンが近づき、顔色が悪く元気がないのを見てとり

「おまえ・・・病気か?」

と、気遣った。スジョンが黙っていると、イヌクを気にしながら言った。

「おまえに話がある」

「何ですか」

「ここじゃなくて、他で話そう」

「いいえ、ここで話して」

ジェミンはイヌクの前でためらったが、正直にスジョンに言った。

「わびを言いに来たんだ。すまなかった・・」

「わびだなんて・・色々世話になったわ。私の方こそ、言い過ぎてごめんなさい」

「俺の考えが甘かったんだ・・・それから、あの部屋は空いているからいつでも好きなときに使え」

スジョンは力無く笑った。

ジェミンは胸が痛かった。イヌクがいなければ抱きしめていたかも知れない・・そうジェミンは思った。

「とにかく、すまなかった。それからこれを・・」

そう言って、ジェミンはスジョンの手にそっと携帯を握らせた。

「また、電話をするから」

そう言ってジェミンは帰っていった。

するとイヌクが怒ったように聞いた。

「何がすまないんだ?」

スジョンは

「ちょっとね・・」

と答えて部屋に入っていった。

イヌクはスジョンが何故自分につっけんどんなのかわからず、不機嫌そうに待っていると

「これを・・」

といって、イヌクの鞄と上着を持って出てきた。イヌクはそれをさっと、スジョンの手からもぎ取った。

「それから、ありがとう・・」

と、スジョンが言った。

「何がありがとうなんだ」

いらだつようにイヌクが言うと、スジョンがぽつりと悲しげに言った。

「もてあそばれた可哀想な女に目をかけてくれて・・・」

そして、部屋に入ってしまった。

その途端、スジョンが何故急に自分に対して冷たくなったのかわかった。

イヌクの顔が後悔と寂しさでいっぱいになった。

スジョンは幼い頃両親を亡くしてからというもの、哀れみと貧しさの中を必死で生きてきたのだ。

人から哀れみを受けたくないが故に、必死で働いてきた。それがスジョンを支えたプライドでもあったのだ。

そして、イヌクはスジョンを決して哀れんでいたわけではなく、心から愛していたのだった。

(スジョンの心を傷つけてしまった・・・)

イヌクは部屋に戻り、スジョンを傷つけたことを心から後悔していた。


スジョンは一人布団に潜り、静かに泣いた。

イヌクに愛されているかも知れないと言う儚い期待が、それは「哀れみ」だったと思いこんだスジョンであった。

それに引き替え、ジェミンはイヌクの前でプライドを捨ててまで謝ってくれた。

(俺がおまえを好きなだけだ・・・)そう言ったときの、ジェミンを思い出していた。

翌朝、イヌクが出勤しようと外に出ると、スジョンも丁度部屋から出てきた。

きちんと身支度をしているスジョンをみて、イヌクはまさかまたギャラリーに行くのかと心配になったが、

スジョンは目を合わさずにさっさと行ってしまった。

イヌクはやはり自分の言葉が、スジョンを傷つけていたということを悟った。

スジョンはギャラリーの前に立つと、さすがに少し入りにくそうに立ち止まったが、思い切って中に入った。

すると

「開店は10時からですけど」

と、見知らぬ女性が現れた。

「チェ・ヨンジュさんはいらっしゃいますか?」

とスジョンが聞くとその後ろからすぐにヨンジュが顔を出した。

「何しに来たの」

「もう、次の人が決まったのね・・」

「ええ・・誰にでもできる仕事だもの。」

「そう・・じゃあ」

と帰りかけたスジョンに、ヨンジュが勝ち誇ったように言った。

「もう、あの部屋には行っていないでしょうね。自分の立場をわきまえなさい」

スジョンは振り返りムキになって言った。

「まだわからないわ・・・」

「どういう意味?可哀想に、ふしだらな上にあたまも悪いの?」

スジョンは蔑むように笑ってヨンジュに言った。

「ふしだら?婚約者がいるのに他の男の家に入り込むような人に言われたくないわ」

ヨンジュの顔が悔しさでゆがんだ。

スジョンはそう言ってギャラリーを出ると、思い切り深く息を吸い込んだ。
スジョンの意地が黙っていられなかった。

その足でマンションに行くと、化粧をしてドレスアップした。

そしてジェミンに電話をしようと短縮の2番を押すと、イヌクの名前が現れて慌てて電話を切った。

スジョンは、もしかして・・・と思い、1番を押すとやはりジェミンの名前が出てきた。

ジェミンが勝手に、自分とイヌクの順番を入れ替えてから、携帯をスジョンに返したのだった。

スジョンは、思わずそんなジェミンが可愛いらしく思えて笑った。


ジェミンは仕事にも身が入らず、窓枠に足をかけて外をぼんやり見ていた。

スジョンを失った心の寂しさを、ただひたすら耐えていたのだった。

そのとき携帯がなった。めんどくさそうに振り返り、何気なく手にした携帯にスジョンの名前が出ていると、

慌てて出ようとして間違って電話を切ってしまった。

「もしもし・・もしもし・・」

切れている電話に、願いをかけるように両手で包み額に当てた。

「頼むよ・・・」

仕方なく自分から電話をしようとすると、もう一度スジョンから電話がかかってきた。

深呼吸を何度かして、わざと落ち着いたような声を出した。

「もしもし・・あぁ、おまえか・・」

スジョンが一緒に食事をしようと誘うと、ジェミンの顔が一気に嬉しそうに輝いた。

待ち合わせの店を約束すると、ジェミンはすぐに秘書に電話をかけて言った。

「今日の夕方以降の予定はすべてキャンセルしろ」


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